弘前大学人文社会科学部
文化創生課程 文化資源学コース


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ゼミ・研究室紹介

博物館学研究室/植月 学(准教授)

はじめに

 博物館は本コースで皆さんが接する様々な文化資源を発見し、発信し、残していく上で大事な役割を持つ場です。本研究室は2017年度に開かれたばかりの新しい研究室ですが、未来の学芸員の養成、あるいはより広く文化資源の保存と活用、地域活性化、教育など、博物館活動を通じて社会貢献ができる人材の育成を目指しています。


博物館学とは?

 博物館学とは博物館とは何であり、何をすべきかを追究する学問分野です。具体的には博物館の歴史や社会における役割といった理論に関する分野と、展示技術や教育手法、コレクションの整理と保存といった実践に関する分野からなります。ただ、博物館自体が変化し続け、多様な形態をとるようになっていますから、博物館学の対象も今後さらに多岐にわたっていくでしょう。それでも、博物館学の目的が社会にとってより良い博物館像を求め、描き出すことであることに変わりはありません。


学芸員の仕事

 そもそも皆さんは学芸員の仕事、あるいは博物館の役割についてどんなイメージを持っていますか?研究室にこもって研究をしているイメージでしょうか?あるいは展示の印象の方が強いかもしれませんね。
 学芸員の仕事はまず資料を集め、それを調査研究し、展示などを通じてその価値や意味を広く伝えることです。同時に、見落とされがちな重要な役割は文化財や生物標本などの資料が後世にきちんと伝えられるよう、適切に保存することです。活用ばかりに目が向けられがちな世相がありますが、この最後の点を見誤ってはならないと思います。博物館資料は消費可能な消耗品ではありません。先人たちの努力があって初めて伝えられた資料を次世代へとつないでいく責務が我々にはあります。展示が資料の持つ価値を現代の人々に伝え、活かしてもらう役割を担うのに対し、保存は未来の人々に対する仕事と言えるでしょう。


私の経験から

ニホンオオカミの展示
写真1 ニホンオオカミの展示

山国に運ばれた海産物に関する展示
写真2 山国に運ばれた海産物に関する展示

化石・恐竜の展示
化石・恐竜の展示
写真3 化石・恐竜の展示

 理念的な話ばかりでは伝わりにくいと思いますので、私が山梨県の博物館に勤務していた頃の経験をもとに学芸員の仕事の一端をご紹介しましょう。
 博物館に勤務して初めて調査を命じられたのが、絶滅したニホンオオカミの頭骨でした。皮膚や筋肉がミイラ状に残っているのが非常に珍しい資料で、個人のお宅に伝わったものです。動物考古学を専門にしていながら恥ずかしい話なのですが、私には当初なぜそのようなものが個人宅に残されているのか見当もつきませんでした。本格的に調査を開始する前にニュースになってしまい、知識が追い付いていなくて焦った思い出もあります。しかし、専門の考古学だけでなく、民俗学や文献史学など様々な分野から調査をおこなうことで、この資料が江戸時代のオオカミ信仰と、魔除けとして頭骨を用いる風習の広がりによって残されたことが次第に明らかになりました。もちろん、私一人の力ではなし得なかったことで、所蔵者や各地の学芸員の方との対話や、分野の異なる同僚学芸員たちの協力によって明らかになったものです。その成果は私が担当した最初の展示に結実し、小規模展示ながら大きな反響がありました(写真1)。貴重な資料との出会いにより、学芸員として良いスタートが切れたのは幸運でした。
 食文化の展示を担当した際には内陸の独特な海産物利用の解明に取り組みました。たまたま分析させてもらった県内の幕末~明治時代の遺跡から大量の魚骨が出土したのですが、そのほとんどがマグロでした。不思議に思って調べていると、今でも山梨県民が全国屈指のマグロ好きであることを教えてもらいました。さらに調査を進めると、江戸時代に伊豆で大量のマグロが水揚げされていたこと、それらが山を越えて山梨にもたらされていたことを示す文献記録に出会いました。様々な資料が結びついて、山国なのにマグロ好きという一見不可思議な現象に歴史的裏付けを与えることができたのです(写真2)。
 *このテーマに興味が湧いた方はぜひ下記のサイトもご覧ください。
 海のない地域に残る「海魚の食文化」(ミツカン 水の文化センター 水の風土記)
http://www.mizu.gr.jp/fudoki/people/060_uetsuki.html

 これらの発見はおそらく専門の考古学だけをやっていたら気付かなかったことでしょう。展示という必要に迫られたからこそ、異分野の資料に出会うことになり、情報も集まってきたのです。博物館では自分の専門を離れ、人類が登場するはるか以前の恐竜の展示から、近代の鉄道の展示まで、様々な展示を経験させてもらいました(写真3)。苦労も多くありましたが、新たな知識を吸収する楽しさ、それらがつながって新たな発見に結び付く感動、そして展示として伝えられる喜びは苦労を補って余りあるものでした。
 
 
 
 
 


博物館の強み

馬の歴史の展示
写真4 馬の歴史の展示

 博物館を特徴づける活動はやはり展示です。現代は自宅にいながらにして世界中の様々な情報にアクセスできる時代です。その中で、博物館の一番の強みはやはり実物資料との出会いを提供できることです。上記の例でご紹介したように、同じ資料を核にして異分野の学芸員同士が、あるいは外部の研究者や市民がつながっていくことが博物館の活力を生み出しています。資料が持つ価値、魅力は展示を通じて引き出されます。ですから展示は実はゴールではないのです。観覧者からのフィードバックにより新たな資料、情報、疑問がもたらされ、それが次の調査研究、さらには展示へとループのようにつながっていくのが博物館における調査研究の特徴なのです。
 
 
 
 
 


学芸員になるには

平川市大光寺新城跡から出土した中世の馬骨
写真5 平川市大光寺新城跡から出土した中世の馬骨

 学芸員になりたいという方はまずは学芸員資格を取得する必要があります。弘前大学では学芸員資格取得に必要な単位をすべて取得することができます。人文系から理工系まで多彩な専門分野の先生方が指導してくださいます。ただし、2年生から4年生まで通常の授業に加えて多くの講義、実習を取らなければならないので決して楽ではありません。
 もちろん、専門性も大事です。専門分野でモノを見る力が備わっていないと学芸員の職務を満足にこなすことはできません。まずは学部や大学院で専門性を磨いておくことが基本です。さらに、すでに述べたように自分の専門で完結することが少ないのが博物館の業務です。したがって、学芸員には幅広い関心と多角的な視点からテーマにアプローチする応用力が求められます。展示は様々な立場・職種の人達と関わる仕事ですから、コミュニケーション能力や交渉力も必要です。「雑芸員」と揶揄されることもあるように、場合によってはデザイナー、インタープリター、エデュケーター、プロデューサーといった多様な役割を一人でこなさざるを得ないのが日本の学芸員の現状です。こんなことを書くと「自分には無理だ」と思われてしまいそうですが、最初からこれらの能力が備わっている人などいません。経験を通じて身に付けていくものですから、心配しないでください。まず大事なのはこうした仕事をこなす意欲があるかどうかです。
 学芸員の採用は少なく、狭き門ですが、多くの場合資格がないとそもそも応募できないのも事実です。また、学芸員としての知識が役に立つ職業は地方公共団体の文化財担当職員、教員、展示関連企業など多くあり、博物館職員に限られるものではありません。博物館はその国や地域が重きを置く価値観を表す施設であると言われます。学芸員はその伝道者としてやりがいのある仕事ですので、多くの皆さんが目指してくれることを願っています。


ゼミで学べること

現代の標本と比べて遺跡から出土した骨を調べる
写真6 現代の標本と比べて遺跡から出土した骨を調べる

 博物館に関する研究全般を扱うことが可能です。
 私自身は人と動物の関係史を研究テーマにしています。遺跡から出土する動物骨、貝殻などを主な研究対象に、縄文時代の貝塚や生業(狩猟・漁労)、歴史時代の畜産(牛馬)を研究の二つの柱としています(写真4~6)。博物館だけでなく、動物や環境史に興味がある方も気軽に訪ねてきてください。博物館と同じように異分野の人たちが出会うことで新たな発見につながるようなゼミを目指しています。
※私が扱ってきたテーマについては下記をご参照ください。
researchmap(研究者データベース)
http://researchmap.jp/uetsukim

(本文中の画像は山梨県立博物館の許可を得て掲載させていただきました)


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